特許ライセンス(CRISPR/Cas9)を知る
CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集関連技術には複数の特許が存在するため、商業利用を前提とする研究開発(創薬・再生医療・細胞治療など)では、受託会社が必要な特許ライセンスを取得しているか確認することが重要です。
本記事では、CRISPR/Cas9の特許ライセンスの基礎知識と、受託会社を選ぶ際の確認ポイントについて解説します。
※本記事は特許・契約に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、法的な助言ではありません。個別の契約や利用範囲については、弁理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
様々な生物におけるゲノム編集技術の応用を目指した基礎研究をテーマに、特に、新規ゲノム編集技術の基盤開発研究を行っています。ゲノム編集技術の医療応用や植物分野の応用技術開発を進めています。
なぜCRISPR/Cas9には
特許ライセンスが
必要なのか
CRISPR/Cas9の基本技術には、複数の特許ファミリーが存在します。代表的なものとして、以下の2つが広く知られています。
- CVC特許:Emmanuelle Charpentier博士とJennifer Doudna博士らによるCRISPR/Cas9関連技術の主要な特許ファミリー。
- Broad Institute特許:真核細胞(ヒトや動物の細胞など)へのCRISPR/Cas9応用に関する主要な特許ファミリー。
非商業目的の研究では、ライセンスの取扱いが商業利用とは異なる場合があります。一方、受託サービスの提供や医薬品開発、細胞治療など商業利用を伴う研究開発では、必要な特許ライセンスを取得していることが求められます。
主な特許ライセンスの
窓口
- ERS Genomics:CVC特許ファミリーに関するライセンス提供窓口の一つです。研究ツールや試薬、医薬品開発、GMP製造、家畜・コンパニオンアニマル分野など、幅広い用途に対する非独占的ライセンスを提供しており、日本国内でも複数の企業がライセンス契約を締結しています。
- Broad Institute:真核細胞へのCRISPR/Cas9応用に関する特許ファミリーについて、用途や地域に応じたライセンス提供を行っています。
なお、CRISPR/Cas9関連特許の成立状況や有効性は、国・地域や個々の特許によって異なります。例えば、欧州ではBroad Instituteの一部特許が無効と判断された事例※1がある一方、日本ではCVC特許ファミリーに属する一部特許が異議申立てを経ても維持された事例※2があります。そのため、商業利用を検討する際は、対象となる国・地域におけるライセンス状況を確認することが重要です。
受託会社を選ぶ際に
確認すべきポイント
- ライセンスの保有状況:受託会社が対象となる用途・地域に必要な特許ライセンスを取得しているか。
- 利用範囲:取得しているライセンスが、研究目的だけでなく商業利用を伴う研究開発(医薬品開発など)にも対応しているか。
- 成果物の利用範囲:納品された細胞・動物を、共同研究先や他の委託先でも使用できるか(ライセンス契約の範囲に含まれるか)。
- 契約状況:ライセンス契約や対象特許の状況は変更される場合があるため、依頼時点で最新の契約内容を確認する。
ゲノム編集受託サービス
会社のライセンス
取得状況
ゲノム編集を外部委託する際は、受託会社が必要な特許ライセンスを取得しているか確認することが重要です。ここでは、主なゲノム編集受託サービス会社のライセンス取得状況をまとめました。
GenAhead Bio・セツロテック
GenAhead Bio・セツロテックは、ERS Genomics Ltd.およびBroad InstituteのCRISPR/Cas9関連ライセンスに対応していることを公式サイトで公開しています。研究用途における利用条件や、共同研究先・研究委託先での利用、製品開発に関する条件なども定められています。商業利用については、用途に応じて別途ライセンスの確認が必要です。
タカラバイオ
タカラバイオは、ゲノム編集による細胞株作製サービスのページにおいて、作業および納品物に関するライセンス情報(License Statement)を明記しており、利用する製品・サービスに応じたライセンス条件を確認できる体制を公開しています。
CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を委託する際は、特に商業利用を予定している場合、受託会社が必要な特許ライセンスを取得しているかを確認することが重要です。また、特許やライセンス契約の状況は変化する可能性があるため、依頼時点で最新の情報を確認し、必要に応じて専門家にも相談することをおすすめします。
監修者からのコメント
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
CRISPR/Cas9の特許ライセンスは、研究目的の利用と商業目的の利用で扱いが異なる複雑な分野です。特に将来的に医薬品開発や細胞治療への応用を見据えている場合は、受託会社のライセンス取得状況を早い段階で確認しておくことをおすすめします。
ERS/BROADの
ライセンスを使用する【目的別】ゲノム編集受託サービス会社3選
複雑なゲノム編集を
無駄なくスピーディーに
成功させたい
GenAhead Bio
引用元:GenAhead Bio公式HP
(https://jp.genaheadbio.co.jp/)
- ノックイン・レポーター細胞・マルチプルKOなど、一般的なプロトコールから既存プロトコールでは再現できない複雑なゲノム編集まで対応。受託実績は190件超(※)で、他社に断られた案件の引き継ぎにも応じる。
- プール細胞の段階で編集成否を早期に確認できる独自のCRISPR-SNIPER法を採用。研究スケジュールが逼迫している場面でも、2~3週間でGo/No Goの判定を出し、後工程の遅延・手戻りを防ぐ。
納期の目安
2〜3週間
マウス・ラット等の
ゲノム編集動物モデルを
作製したい
セツロテック
引用元:セツロテック公式HP
(https://www.setsurotech.com/)
- KOマウス・Floxマウスといった幅広い種類の遺伝子改変動物モデルを受託。マウス受精卵へのインジェクション技術を保有し、動物モデル作製を専門外とする研究者でも、必要な仕様を伝えるだけで依頼できる。
- CRISPR/Cas9での編集が難しいケースに対しても、独自技術「ST8」による代替アプローチが可能。一度の問い合わせで複数の手法を提案してもらえるため、動物モデル作製の選択肢が広がる。
納期の目安
5ヶ月〜
ゲノム編集から
オフターゲット解析等まで
一括で依頼したい
タカラバイオ
引用元:タカラバイオ公式HP
(https://www.takara-bio.co.jp/ja/index.html)
- sgRNA設計・細胞株作製・オフターゲット解析・各種アッセイ(FCM・WB・PCR)まで、複数業者への発注・調整なしに同一窓口で完結。論文提出・社内審査に必要なデータを一貫した品質で揃えられる。
- 自社開発のCRISPR試薬「Guide-itシリーズ」を販売。その試薬を使って上手くいかなかった場合も、別の受託先を探すことなく、そのまま依頼できる。試薬の仕様を知り尽くしたチームが対応するため、条件設定のやり直しも発生しない。
納期の目安
4.5ヶ月〜