費用だけで選ぶと失敗する?
ゲノム編集の受託サービスを選ぶ際、見積金額だけを比較して依頼先を決めてしまうと、後から想定外の追加費用や手戻りが発生することがあります。本記事では、費用だけで受託会社を選ぶリスクと、費用以外に確認すべきポイントを解説します。
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
様々な生物におけるゲノム編集技術の応用を目指した基礎研究をテーマに、特に、新規ゲノム編集技術の基盤開発研究を行っています。ゲノム編集技術の医療応用や植物分野の応用技術開発を進めています。
なぜ「費用だけ」で
選ぶと失敗しやすいのか
ゲノム編集は、標的遺伝子や細胞種、目的とする改変(ノックアウト・ノックイン・点突然変異など)によって、編集効率や目的クローンの取得難易度、必要な工程が大きく異なる技術です。見積金額が低くても、次のような要因により、結果として総費用が高くなるケースがあります。
- 標準的なプロトコルのみが対象:高難易度の改変では追加設計や追加費用が必要になる。
- 品質保証工程が標準プランに含まれていない:オフターゲット解析など、品質を担保するための工程が標準プランに含まれていない。
- 条件検討が不十分:条件検討が十分でなく、追加実験や再委託が必要になる。
- クローン選抜や確認作業の簡略化:クローン選抜や確認作業が簡略化されており、納品後に追加の検証作業が発生する。
見積金額だけで判断すると、このような想定外の追加費用が発生する可能性があります。特に初めて受託サービスを利用する場合、複数社の見積もりを比較しても、対応範囲や品質確認の内容の違いまで把握することは容易ではありません。
見積金額に含まれる
範囲を確認する重要性
ゲノム編集の見積金額は、受託会社によって含まれる作業範囲が異なります。
- 設計費用:gRNAやドナーベクターなどの初期設計費。
- 実験費用:細胞培養、遺伝子導入、受精卵操作、クローン選抜などの実験工程にかかる費用。
- 確認費用:シーケンス解析や編集結果の確認、オフターゲット解析などの品質評価にかかる費用。
- 再実験の条件:目的の編集結果が得られなかった場合、追加費用なしで再実験が行われるのか、それとも別料金となるのか。
同じ「ノックアウト細胞株作製」という名目でも、これらの対応範囲が異なれば、最終的な費用だけでなく、成果物の仕様や品質にも大きな違いが生じることがあります。
費用だけで選んだ場合に
起こりやすい失敗例
- オフターゲット解析が十分に実施されず、実験結果の信頼性に影響する:低価格なプランでは、オフターゲット解析などの品質評価が標準サービスに含まれていない場合がある。
- 追加実験や再委託が必要になり、結果として費用が増加する:高難易度の改変(ノックイン、点突然変異、条件付きノックアウトなど)では、設計や条件検討、技術力の違いによって、目的とする編集結果の取得率や再実験の必要性に影響することがある。
- 特許ライセンスの確認不足により、商業利用の段階で追加対応が必要になる:研究目的の利用では問題がなくても、後から商業利用を検討した際にライセンスの確認が必要になることがある。
- 納期が想定より長期化し、研究スケジュールに影響する:契約内容や受託状況によっては想定より納期が延びることがあり、研究計画全体に影響を及ぼす可能性がある。
費用以外に確認すべき
ポイント
- 類似案件での実績:依頼したい遺伝子・細胞種、改変の種類について具体的な実績があるか。
- 品質評価体制:どの工程で、どのような方法により編集結果を確認・評価しているか。
- 再実験・追加対応の条件:目的とする編集結果が得られなかった場合の対応方法や、契約条件が明確か。
- コミュニケーション体制:進捗報告の頻度や、想定外の結果が出た際の原因分析・対応方針を適切に共有できる体制が整っているか。
参考費用感の一例
公開されている情報の一例として、タカラバイオのノックアウト細胞株作製サービスでは、参考費用360万円〜、納期4.5ヶ月〜という情報が公開されています。一方、GenAhead Bio・セツロテックなどでは、プロジェクトの内容(対象遺伝子、細胞種、改変の難易度など)によって費用が大きく変わるため「要問い合わせ」としている会社もあります。
「要問い合わせ」という表示は、費用が不透明という意味ではなく、案件ごとに見積もりを個別に作成している場合が多いと考えられます。いずれの場合も、見積もりを取る際は、上記でご紹介した「見積金額に含まれる範囲」を必ず確認することをおすすめします。
ゲノム編集の受託会社を費用だけで選ぶと、品質評価工程の不足や追加実験の発生などにより、想定外の追加費用や納期の遅延につながる可能性があります。見積金額だけでなく、対応範囲や類似案件での実績、品質評価体制、再実験時の対応条件なども含めて総合的に比較し、自社の研究目的に適した受託会社を選ぶことが重要です。
監修者からのコメント
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
ゲノム編集は、見積金額だけでは見えてこない技術的な難易度の差が結果に大きく影響する分野です。安価に見える見積もりほど、確認工程や再実験の条件がどうなっているかを、依頼前にしっかり確認していただきたいと思います。
ERS/BROADの
ライセンスを使用する【目的別】ゲノム編集受託サービス会社3選
複雑なゲノム編集を
無駄なくスピーディーに
成功させたい
GenAhead Bio
引用元:GenAhead Bio公式HP
(https://jp.genaheadbio.co.jp/)
- ノックイン・レポーター細胞・マルチプルKOなど、一般的なプロトコールから既存プロトコールでは再現できない複雑なゲノム編集まで対応。受託実績は190件超(※)で、他社に断られた案件の引き継ぎにも応じる。
- プール細胞の段階で編集成否を早期に確認できる独自のCRISPR-SNIPER法を採用。研究スケジュールが逼迫している場面でも、2~3週間でGo/No Goの判定を出し、後工程の遅延・手戻りを防ぐ。
納期の目安
2〜3週間
マウス・ラット等の
ゲノム編集動物モデルを
作製したい
セツロテック
引用元:セツロテック公式HP
(https://www.setsurotech.com/)
- KOマウス・Floxマウスといった幅広い種類の遺伝子改変動物モデルを受託。マウス受精卵へのインジェクション技術を保有し、動物モデル作製を専門外とする研究者でも、必要な仕様を伝えるだけで依頼できる。
- CRISPR/Cas9での編集が難しいケースに対しても、独自技術「ST8」による代替アプローチが可能。一度の問い合わせで複数の手法を提案してもらえるため、動物モデル作製の選択肢が広がる。
納期の目安
5ヶ月〜
ゲノム編集から
オフターゲット解析等まで
一括で依頼したい
タカラバイオ
引用元:タカラバイオ公式HP
(https://www.takara-bio.co.jp/ja/index.html)
- sgRNA設計・細胞株作製・オフターゲット解析・各種アッセイ(FCM・WB・PCR)まで、複数業者への発注・調整なしに同一窓口で完結。論文提出・社内審査に必要なデータを一貫した品質で揃えられる。
- 自社開発のCRISPR試薬「Guide-itシリーズ」を販売。その試薬を使って上手くいかなかった場合も、別の受託先を探すことなく、そのまま依頼できる。試薬の仕様を知り尽くしたチームが対応するため、条件設定のやり直しも発生しない。
納期の目安
4.5ヶ月〜