水産物
養殖魚をはじめとする水産物の育種では、従来の選抜育種では目的形質を持つ系統の作出に長い期間を要することから、ゲノム編集技術を活用して育種を効率化する研究開発が進められています。
世界的に水産物の養殖生産量や需要が増加するなか、成長性や耐病性、可食部歩留まりなどの有用形質を効率的に改良できる技術として期待されています。本記事では、水産物におけるゲノム編集の仕組みや主な用途、作製手法、外部委託時の注意点を解説します。
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
様々な生物におけるゲノム編集技術の応用を目指した基礎研究をテーマに、特に、新規ゲノム編集技術の基盤開発研究を行っています。ゲノム編集技術の医療応用や植物分野の応用技術開発を進めています。
水産物のゲノム編集
とは?
水産生物のゲノム編集では、受精卵にCRISPR/Cas9などのゲノム編集因子を顕微注入し、標的遺伝子に変異を導入する方法が中心です。水産生物の育種は、対象種によって世代時間や繁殖特性が異なるほか、完全養殖技術が確立されていない種もあるため、目的形質を持つ系統の作出に長期間を要する場合があります。
ゲノム編集技術は、目的遺伝子を直接改変できることから、養殖対象種における育種の効率化や育種期間の短縮につながる技術として注目されています。
水産物のゲノム編集の
主な用途
- 筋肉量の増加:筋肉の増殖を抑制する遺伝子(ミオスタチン遺伝子)を編集し、筋肉量の多い養殖魚を作出する。
- 成長速度の向上:食欲や成長に関わる遺伝子を編集し、養殖期間の短縮につなげる。
- 陸上養殖での活用:天候に左右されにくい陸上養殖と組み合わせることで、生産管理やトレーサビリティの向上を図る。
日本では、京都大学・近畿大学の研究グループとリージョナルフィッシュ社により、ミオスタチン遺伝子を標的としたゲノム編集によって筋肉量を増加させた「肉厚マダイ」が開発され、2016年には目的の変異を有する個体が得られたことが報告されています。
水産物のゲノム編集の
主な作製手法
- 顕微注入法:受精直後の卵にガラス管でゲノム編集因子を直接注入する、魚類のゲノム編集で広く使われている手法。
- 編集個体のスクリーニング:得られた個体について、目的の変異が導入されているかをシーケンス解析などで確認し、編集個体を選抜する。
- 変異の固定・系統化:養殖用途として利用する場合、複数世代にわたって形質が安定して遺伝することを確認し、系統化を進める。
ゲノム編集受託サービス会社と水産分野との
関わり
セツロテック
セツロテックは、水産物のゲノム編集を直接手掛ける受託事例としてではなく、リージョナルフィッシュ社が開発した「22世紀鯛(肉厚マダイ)」「22世紀ふぐ(トラフグ)」について、自社メディアで水産業界の課題や技術的背景を紹介する記事を公開しています。同社代表が試食した感想を寄せるなど、水産分野のゲノム編集技術への関心の高さがうかがえます。
GenAhead Bio・タカラバイオ
について
GenAhead Bio・タカラバイオは、いずれも主にiPS細胞や培養細胞を対象としたゲノム編集受託サービスを公開しており、本記事執筆時点では水産物を対象としたゲノム編集受託サービスの公開情報は確認できませんでした。水産物での依頼を検討する場合は、対応可否を直接確認することをおすすめします。
外部委託する際の注意点
- 対象種への対応実績:依頼したい魚種・水産生物で、ゲノム編集や受精卵操作の実績があるか。
- 規制対応の知見:カルタヘナ法上の取扱いや、食品としての届出制度など、関連する法令や制度への知見があるか。
- 変異の固定・系統化:養殖用途で展開する場合、目的の変異や形質が安定して遺伝することを確認できるか。
- 飼育・評価体制:系統維持や養殖試験、形質評価まで見据えた支援体制が整っているか。
水産物のゲノム編集は、成長性や筋肉量の向上など、養殖業における生産性向上や品種改良に貢献する技術として期待されています。国内では「肉厚マダイ」や「トラフグ」のような実用化事例も報告されていますが、水産分野での受託実績を公開している企業はまだ多くありません。
また、食品として展開する場合は関連法令や届出制度への対応も重要となるため、対象種での実績や規制対応の知見を踏まえて選定することが重要です。
監修者からのコメント
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
水産物のゲノム編集は、マダイやトラフグの例のように、育種期間を大幅に短縮できる可能性を示した分野です。一方で、対応実績のある受託会社はまだ限られているため、依頼を検討する際は、対象種での実績や規制対応の知見を早めに確認することをおすすめします。
ERS/BROADの
ライセンスを使用する【目的別】ゲノム編集受託サービス会社3選
複雑なゲノム編集を
無駄なくスピーディーに
成功させたい
GenAhead Bio
引用元:GenAhead Bio公式HP
(https://jp.genaheadbio.co.jp/)
- ノックイン・レポーター細胞・マルチプルKOなど、一般的なプロトコールから既存プロトコールでは再現できない複雑なゲノム編集まで対応。受託実績は190件超(※)で、他社に断られた案件の引き継ぎにも応じる。
- プール細胞の段階で編集成否を早期に確認できる独自のCRISPR-SNIPER法を採用。研究スケジュールが逼迫している場面でも、2~3週間でGo/No Goの判定を出し、後工程の遅延・手戻りを防ぐ。
納期の目安
2〜3週間
マウス・ラット等の
ゲノム編集動物モデルを
作製したい
セツロテック
引用元:セツロテック公式HP
(https://www.setsurotech.com/)
- KOマウス・Floxマウスといった幅広い種類の遺伝子改変動物モデルを受託。マウス受精卵へのインジェクション技術を保有し、動物モデル作製を専門外とする研究者でも、必要な仕様を伝えるだけで依頼できる。
- CRISPR/Cas9での編集が難しいケースに対しても、独自技術「ST8」による代替アプローチが可能。一度の問い合わせで複数の手法を提案してもらえるため、動物モデル作製の選択肢が広がる。
納期の目安
5ヶ月〜
ゲノム編集から
オフターゲット解析等まで
一括で依頼したい
タカラバイオ
引用元:タカラバイオ公式HP
(https://www.takara-bio.co.jp/ja/index.html)
- sgRNA設計・細胞株作製・オフターゲット解析・各種アッセイ(FCM・WB・PCR)まで、複数業者への発注・調整なしに同一窓口で完結。論文提出・社内審査に必要なデータを一貫した品質で揃えられる。
- 自社開発のCRISPR試薬「Guide-itシリーズ」を販売。その試薬を使って上手くいかなかった場合も、別の受託先を探すことなく、そのまま依頼できる。試薬の仕様を知り尽くしたチームが対応するため、条件設定のやり直しも発生しない。
納期の目安
4.5ヶ月〜