不死化細胞株
HeLa細胞やHEK293細胞、CHO細胞などの不死化細胞株は、長期間にわたって継代培養できることから、遺伝子機能解析やタンパク質発現・生産、創薬研究など幅広い分野で利用されている細胞モデルです。本記事では、不死化細胞株に対するゲノム編集の特徴や用途、主な作製手法、外部委託時の注意点について解説します。
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
様々な生物におけるゲノム編集技術の応用を目指した基礎研究をテーマに、特に、新規ゲノム編集技術の基盤開発研究を行っています。ゲノム編集技術の医療応用や植物分野の応用技術開発を進めています。
不死化細胞株とは?
不死化細胞株とは、通常の体細胞のような分裂寿命を超え、長期間にわたって継代培養が可能な培養細胞です。代表的なものに、子宮頸がん由来のHeLa細胞、ヒト胎児腎由来のHEK293細胞、チャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞があり、基礎研究からバイオ医薬品の製造まで広く利用されています。
不死化細胞株は遺伝子導入効率が比較的高く、iPS細胞や初代培養細胞と比べてゲノム編集を実施しやすい一方、細胞株によっては異数性や複雑な核型を示すことがあります。そのため、標的遺伝子のコピー数や染色体構成を考慮しながら、ノックアウトやノックインの成否を評価することが重要です。
不死化細胞株ゲノム編集
の主な用途
- 遺伝子機能の解析:安定した細胞株で標的遺伝子をノックアウト・ノックインし、遺伝子機能や細胞表現型への影響を解析する。
- タグ融合タンパク質の作製:HiBiTなどの発光タグやGFPなどの蛍光タグを内在性遺伝子に融合し、タンパク質発現量や細胞内局在をモニタリングする。
- レポーターアッセイ系の構築:特定の遺伝子座に安定的にレポーター遺伝子を組み込み、再現性の高いアッセイ系を構築する。
- 抗体・タンパク質生産用細胞の開発:CHO細胞などの生産細胞株に遺伝子改変を施し、抗体や組換えタンパク質の生産性や品質の向上を図る。
主な作製手法
- CRISPR/Cas9+RNPまたはプラスミド:Cas9タンパク質とsgRNAの複合体(RNP)またはCas9/sgRNA発現プラスミドを細胞へ導入し、標的遺伝子を編集する。
- 磁気ビーズ選択による濃縮:編集後のプール細胞から目的の編集を持つ細胞を濃縮するため、磁気ビーズ選択などが利用される場合がある。
- 限界希釈法によるシングルクローン化:プール細胞から目的の編集が入ったクローンを単離し、ダイレクトシーケンスで確認する。
- Cas9ニッカーゼの利用:通常のCas9ヌクレアーゼに代えてCas9ニッカーゼを用いることで、オフターゲット変異の低減が期待できる。
ゲノム編集
受託サービス会社の事例
タカラバイオ
引用元:タカラバイオ公式HP(https://catalog.takara-bio.co.jp/com/tech_info_detail.php?mode=3&masterid=M100007395&unitid=U10000779)
タカラバイオの公式サイトでは、293T細胞やJ45.01細胞といった不死化細胞株を対象に、磁気ビーズ選択を利用したノックアウト細胞株の作製実施例が公開されています。CRISPR/Cas9によるゲノム編集後のプール細胞を磁気ビーズで選択(濃縮)することで、編集前と比べてノックアウトされた細胞の割合を高められることが示されています。
セツロテック
セツロテックの培養細胞ゲノム編集サービスは、接着細胞・浮遊細胞の両方に対応しており、不死化細胞株を含む培養細胞のノックアウト・ノックイン作製に対応しています。
GenAhead Bioについて
GenAhead Bioは主にiPS細胞のゲノム編集を専門としており、本記事執筆時点では、HeLa・HEK293・CHO細胞といった不死化細胞株に特化した公開事例は確認できませんでした。依頼を検討する場合は、対応可否を直接確認することをおすすめします。
外部委託する際の注意点
- 対応する細胞株の実績:依頼したい細胞株(HeLa・HEK293・CHOなど)でのゲノム編集実績があるか。
- クローン選抜の方法:限界希釈法やシングルセルソーティングなど、目的の編集クローンを効率よく取得する技術を有しているか。
- 確認方法の厳密さ:ダイレクトシーケンスやPCR解析など、編集の成否をどこまで厳密に確認しているか。
- 用途に応じた品質管理:抗体・タンパク質生産など品質管理が重要な用途では、細胞株の特性評価や品質管理体制に対応しているか。
不死化細胞株は増殖が安定しており、遺伝子導入効率も比較的高いことから、ゲノム編集研究で広く利用される細胞モデルです。一方で、細胞株ごとの特性やクローン選抜・解析の精度によって編集結果の信頼性が左右されるため、外部委託を検討する際は、対象細胞株での実績や技術力を比較したうえで選定することが重要です。
監修者からのコメント
刑部 祐里子Yuriko Osakabe
- 東京科学大学 生命理工学院 教授
- 生命理工学系 生命理工学コース
- 所属学会:日本分子生物学会、日本農芸化学会、日本ゲノム編集学会、日本植物生理学会、日本植物学会、日本植物バイオテクノロジー学会
不死化細胞株はゲノム編集の入門的な実験系ではありますが、クローン選抜の精度や確認方法によって成果の再現性は大きく変わります。磁気ビーズ選択やシングルクローン化の実績がある受託会社を選ぶことで、より確実な結果につながると思います。
ERS/BROADの
ライセンスを使用する【目的別】ゲノム編集受託サービス会社3選
複雑なゲノム編集を
無駄なくスピーディーに
成功させたい
GenAhead Bio
引用元:GenAhead Bio公式HP
(https://jp.genaheadbio.co.jp/)
- ノックイン・レポーター細胞・マルチプルKOなど、一般的なプロトコールから既存プロトコールでは再現できない複雑なゲノム編集まで対応。受託実績は190件超(※)で、他社に断られた案件の引き継ぎにも応じる。
- プール細胞の段階で編集成否を早期に確認できる独自のCRISPR-SNIPER法を採用。研究スケジュールが逼迫している場面でも、2~3週間でGo/No Goの判定を出し、後工程の遅延・手戻りを防ぐ。
納期の目安
2〜3週間
マウス・ラット等の
ゲノム編集動物モデルを
作製したい
セツロテック
引用元:セツロテック公式HP
(https://www.setsurotech.com/)
- KOマウス・Floxマウスといった幅広い種類の遺伝子改変動物モデルを受託。マウス受精卵へのインジェクション技術を保有し、動物モデル作製を専門外とする研究者でも、必要な仕様を伝えるだけで依頼できる。
- CRISPR/Cas9での編集が難しいケースに対しても、独自技術「ST8」による代替アプローチが可能。一度の問い合わせで複数の手法を提案してもらえるため、動物モデル作製の選択肢が広がる。
納期の目安
5ヶ月〜
ゲノム編集から
オフターゲット解析等まで
一括で依頼したい
タカラバイオ
引用元:タカラバイオ公式HP
(https://www.takara-bio.co.jp/ja/index.html)
- sgRNA設計・細胞株作製・オフターゲット解析・各種アッセイ(FCM・WB・PCR)まで、複数業者への発注・調整なしに同一窓口で完結。論文提出・社内審査に必要なデータを一貫した品質で揃えられる。
- 自社開発のCRISPR試薬「Guide-itシリーズ」を販売。その試薬を使って上手くいかなかった場合も、別の受託先を探すことなく、そのまま依頼できる。試薬の仕様を知り尽くしたチームが対応するため、条件設定のやり直しも発生しない。
納期の目安
4.5ヶ月〜